この小説は私が相識になったある統合失調症の患者の半生にわたる病歴を綴ったものである。小説の内容を説明する代わりに、この患者が書いた、「聴覚地獄」と題する次の様な文章を紹介したい。
聴覚地獄
夢を見ました。薄暗い道を歩いているのです。私は「闇穴道」という言葉を何故か思い出します。しばらく歩くと「森羅殿」と書かれた額の懸かった御殿につきました。矢張り闇穴道でした。中へ入って閻魔大王と向き合いました。
名前を聞かれると思っていたら、
「お前は健常者か、それとも障害者か?」
と訊かれたので、少し驚きました。
「私は障害者です」
と答えると、
「何の障害であったのか?」
と訊かれたので、
「精神障害です」
と答えました。閻魔大王は、
「精神障害か。最低の障害じゃな」
と、言いました。私は余程、
「大きなお世話です」
と、答えそうになりましたが、さすがに我慢して黙っていました。
「悪いことをした報いじゃぞ」
「別に悪いことをした訳ではありません。人間として当然の権利を主張しただけです」
「嘘をつくではない」
「嘘ではありません。『僕だって人間だ』と叫ぶ代わりに、壁を叩いたりしただけです」
「その方は、ここをどこだと思う?地獄にも精神病院という所があるのじゃぞ」
私はこれを聞いてうろたえましたが、落ち着いて考え直しました。
「構いません。剣の山や血の池よりはましです」
「馬鹿め。地獄にある精神病院とは、お前が思っている様なモダンな建物などではない。聴覚地獄といってな、不快な音以外は何も聞こえなくなるという地獄なのじゃ」
私はこれを聞いて仰天しました。
「いや、そんな地獄はご免こうむります」
「もう遅い。こりゃ、獄卒ども。こやつを聴覚地獄へ連れて行け」
私は私を拘束しようとする獄卒たちに抵抗しました。必死になってもがき、叫び声を上げたところで目が覚めました。
恵玲菜は自分の名字「佐藤」が大嫌いだ。希少な名字をゲットするためにもと千葉の田舎から東京の大学に進学する。入学式当日、「御手洗」という女子と出会い、ともに最善の名字を獲得しようと誓い合った。博識のクラスメート・佐藤悠太から名字学の講義も受け、御手洗とともに名字を吟味する準備を整えようとする。
そんな折、居候している千葉県船橋市の伯父方のプレハブ小屋が放火に遭う。同市内では放火がほぼ一週間ごとに発生しており、伯父方を含め計4件に達した。不可解なことにいずれも「佐藤」方の別棟が燃やされていた。これが報道されると、息を潜めていた放火魔が刺激を受けたのか、東京都板橋区の「佐藤」方に飛び火。焼死者も出る事態に。さらに大阪方面にも伝播し、「佐藤」をめぐる厄災は世情を騒がせる。
伯父方のプレハブ小屋は恵玲菜が居候するのに合わせて設置したもので、従兄の和宏が母屋からここに移って寝ていた。その小屋が焼けてしまい、これを機に和宏も家を出て行った。恵玲菜は伯父宅に居づらくなったが、一人でアパート暮らしをするには経済事情が許さない。引き続き居候を続け、生活費のタシにと学習塾で講師のアルバイトを始めた。その塾の先輩講師は船橋市の佐藤方連続放火について、「佐藤」という青年が犯人ではと示唆する。ほかにもあまたの「佐藤」が登場し、「佐藤」は大変なことになっていく。
だれもが名字を持っている。なかでも「佐藤」は日本で最多の名字だ。事件や事故に遭う佐藤さんもさぞ多かろう。本作品はそんな「佐藤」にまつわる事件を軸に展開するが、悠太がところどころで名字に関する薀蓄(うんちく)を披露している。名字に関心の薄い人でも興味をそそられること請け合い。ミステリーの要素をとり込んだ青春教養小説である。
この本は、「データをざっと見ておきたい」または「仮説を上手く説明するだけのデータが取れているか」など、表データを本格的に分析する前にデータの状態を見る、Web上に用意された統計アプリの使い方を解説している。
データを質的データ(分類コードなど)と量的データ(計測値など)に分け、質的データに関しては、(1)帯グラフを描く、(2)2つ以上に分類されたグループに関して帯グラフを描き分割表の検定をする、(3)2つ以上に分類されたグループに関して特定の項目の割合の表示と比率の検定をする、の3つ、量的データに関しては(1)相対頻度グラフと累積グラフを描く、(2)1元配置の分散分析を行う、(3)2元配置の分散分析(交互作用の分析つき)を行う、の3つをそれぞれ用意した。どれも基本的なものである。
処理する生データは、各項目のデータが列として一列に設定されている表データを前提としている。6つのアプリは高々3列の生データの入力を必要とするだけである。生データを入力してパラメータを設定し1クリックによってすぐ結果が出るアプリである。分析に必要な前処理もアプリの中で行っている。
第0講で簡単なアプリの動作を説明し、第1講でこのアプリを使うためにデータに対して行う準備作業を述べる。第2講から第4講では、質的データに関する3つのアプリを説明し、第5講から第7講では、量的データに関する3つのアプリを説明している。第8講では、画面に出力される表やグラフが画面からその全体をコピーできる画像データであることを強調して、念のため文書に画像を貼り付ける操作を説明した。第9講では紙のデータから効率的に表データを作成するJavascript で書かれたプログラムを含むHTML文書について説明している。もともと作業は紙のデータから始まるので、このプログラムを下敷きにして自分で画面を設計するやり方を解説している。
入力画面は日本語であるが、出力に関しては英語表記である。使用した用語は統計用語の中でも基本的なものばかりで、各講の中で英語に対応する日本語の統計用語を説明しているので、十分理解できるだろう。