2014-09-18

さとうがたい変

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恵玲菜は自分の名字「佐藤」が大嫌いだ。希少な名字をゲットするためにもと千葉の田舎から東京の大学に進学する。入学式当日、「御手洗」という女子と出会い、ともに最善の名字を獲得しようと誓い合った。博識のクラスメート・佐藤悠太から名字学の講義も受け、御手洗とともに名字を吟味する準備を整えようとする。 
そんな折、居候している千葉県船橋市の伯父方のプレハブ小屋が放火に遭う。同市内では放火がほぼ一週間ごとに発生しており、伯父方を含め計4件に達した。不可解なことにいずれも「佐藤」方の別棟が燃やされていた。これが報道されると、息を潜めていた放火魔が刺激を受けたのか、東京都板橋区の「佐藤」方に飛び火。焼死者も出る事態に。さらに大阪方面にも伝播し、「佐藤」をめぐる厄災は世情を騒がせる。 
伯父方のプレハブ小屋は恵玲菜が居候するのに合わせて設置したもので、従兄の和宏が母屋からここに移って寝ていた。その小屋が焼けてしまい、これを機に和宏も家を出て行った。恵玲菜は伯父宅に居づらくなったが、一人でアパート暮らしをするには経済事情が許さない。引き続き居候を続け、生活費のタシにと学習塾で講師のアルバイトを始めた。その塾の先輩講師は船橋市の佐藤方連続放火について、「佐藤」という青年が犯人ではと示唆する。ほかにもあまたの「佐藤」が登場し、「佐藤」は大変なことになっていく。 
 だれもが名字を持っている。なかでも「佐藤」は日本で最多の名字だ。事件や事故に遭う佐藤さんもさぞ多かろう。本作品はそんな「佐藤」にまつわる事件を軸に展開するが、悠太がところどころで名字に関する薀蓄(うんちく)を披露している。名字に関心の薄い人でも興味をそそられること請け合い。ミステリーの要素をとり込んだ青春教養小説である。 

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